Hear11 中本真生に聴く
今回のHearは、京都の株式会社フィールドで「&ART」というWebサイトを企画/運営する一方で現代美術の作家としても活動する中本真生さん(作家活動時は"なかもと真生"名義)にお話を聞かせて頂きました。
「&ART」は、京都で活躍する「アーティスト」と「社会」を繋ぐWebサイトとして2009年にスタートし、美術や音楽、舞台などジャンルを問わず様々なアーティストを紹介しています。複数のアーティストが参加する「アーティストブログリレー」では作家本人に日常などを語ってもらい、「特集コンテンツ」ではアートと社会を繋ぐための題材や実例を、インタビュー形式で紹介するなど、伝えるという意識の高い編集力のあるWebサイトになっています。
そんな「&ART」を展開している中本さんに、COCON烏丸1Fにあるオーバカナルで、「&ART」を作ったきっかけやアイデア、作家としての立場についてなど、ざっくばらんにお話を伺いました。
中本:
学生時代に、美術の大学にはいたんですけど、どちらかと言うと音楽の方が詳しくて、卒業後しばらくは京都のタワーレコードで働いていました。僕はジャズ/現代音楽コーナーを担当していたのですが、糸魚健一さん(PsysEx)やJohn Zornが好きでフリージャズやエレクトロニカを特にプッシュしていました。最初はそんなに考えずに好きな事に関わろうと思ったんですけど、不況という時代背景もあり、CDが売れなくなっていくのが数字でハッキリ見えてきたんです。そういったことをきっかけに、このまま販売の仕事で、「外側からサポートするという形で関わっていくのか」、「リスクを負ってアーティスト側から関わっていくのか」と考えはじめ、自分のやり方としてはアーティスト側からの方が合ってるかなと思いました。
—–中本さんは、自分自身も作家として大学卒業後も精力的に作品制作/発表されています。2007年に行った展覧会では、既存のギャラリーではなく、木屋町にある元立誠小学校の膝上まで浸水した地下給食室跡を使って作品発表を行っています。その他にも文学、音響、現代アートが融合するイベント「KYOTO音響の変」の企画に関わったりとジャンルを超えた活動をしています。
京都で仕事をしながら作家として活動して行く時に、京都のアートシーンにメディアが無いというのを感じたそうです。「&ART」をやろうと思ったきかっけは、そこを補うなにかが必要だと思ったからだそうです。
中本:
芸術と社会の関係性について、芸術が狭い世界でしか受け入れられていないだとか、特定の人のものだという風に言われていたり、アーティスト自身もそう思っている人たちが多いんじゃないかと思っています。
しかし僕は会社に所属し、たくさんの企業と仕事をしていて、狭い世界というのが芸術の世界だけに限った事ではないというのを感じています。
例えばデザインでも物流でも販売でも、どういう業種でも小さな社会の中ではその中でのルールや常識があって、そのうえでさらに人それぞれが個別の「自己の世界」を持っており、簡単に入り込めないくらい複雑な状況になっている。もちろんそれは社会生活を送るなかで必要とされて出来たものかもしれないので、安易に否定していいものではないのですが、芸術が他の分野と違うところは、社会の枠組みとか個々の世界を飛び越えてコミュニケーション出来る可能性があるということなのではないかと思っているんです。
そういうポジティブな可能性を持ったものって、文化とか芸術と言われるものだけじゃないだろうかと考えています。そういった意味では僕は芸術を閉ざされたものだと思っていません。
メディアをつくる事で、個々の作品と向き合える環境を整備し、このような可能性を広げていけないかと思っています。
—–「&ART」はその構成の中で、作家の紹介が作品集/インタビュー/スケジュール/プロフィールの4つに別れていて、とても分かりやすく掲載されています。アートの中でも作家である「人」を大事に扱っているのが見えます。
中本:
&ARTのブログで田中真吾さんが下記のような内容の記事を書いていました。"作品と向き合っていると思っていても実は周りにある多くの補足情報と一緒に作品を見ているんじゃないかなと思います。作品を制作した人を知っているとか、知識があるというのが作品を鑑賞する上で結構重要な要素なのではないでしょうか。例えばルノワールなどの有名な画家の展覧会に行った時にルノワールを知らない人でも、説明文や年表があったりして会場を出る頃は大体知っている。けれど、現代の作家というのは情報がないし考えている事がどんどん変わっていっているので、見続けることをしないと理解する事が難しい部分があるんです(原文はアーティストブログリレー参照)。"
こういったことは非常に重要なテーマだと思うし、現代の作家を知るにはウェブというメディアが役に立つんじゃないかというのは考えています。こうした役割は社会と作品を繋ぐという事では一番重要なものなんじゃないかと思っていますね。
—– &ARTは4月25日に木屋町のアバンギルドでパフォーマンス型イベント「&ART EVENT」を開催しました。
中本:
イベントは、画家の足田メロウさんに提案していただいて開催する事になったんです。
はじめにメロウさんとイベントについての打ち合せをするためにアバンギルドに行った時に、絶叫紙芝居の林加奈子さんがパフォーマンスをしていたのですが、隣でKyupi Kyupiのメンバーが打ち合せをしていたり、たゆたうのボーカルのヒロさんや、また違うアーティストが普通にイベントを見ていたんです。そうやって自然に面白い人が集まって来る場所って今ほとんどないと思うんです。そこからメロウさんを通じてコラボレーションが生まれるなど、無理やりにやるんじゃなくて何かが自然に起こって行くという意味ではアバンギルドはすごい京都らしい場所だと思っています。
イベントのコラボレーションの組み合わせは、むーとんさんだけメロウさんからの希望だったんですけど、他は僕がアイデアを出しました。
僕の中でも映像作家の林勇気さんと音楽家のPolar Mさんや、糸魚さんと映像作家の宮永亮さんのように、「ココとココを繋げといたら面白いんじゃないか」という若干の戦略的な部分もありました。糸魚さんのようなネットワークが広くて、色んなジャンルの人を知っているような人と、宮永さんみたいに若いけど色んな事を起こそうとしている人の出会いを作ることは重要なことだと思っています。京都は狭いにも関わらず、様々な理由から繋がりが分断されていることが多々あるので、ちょこまか繋いでいきたいなと。それは実際アーティストと関わりあってないと見えない所なので。イベントはそういった細かいところも接合しつつ面白いイベントにしたいという狙いがありました。
dotsは、ユニット自体がいろんなアーティストの集まりなので、単独でというのは決めていました。表現の可能性を見せたいというのがあったので、バラバラの方法でやっている人達を集めるというコンセプトはありました。
僕は音楽も好きですし、東京発信のメディアとかの影響を受けて育ってるんですけど、例えば海外のアーティストや、東京拠点のアーティストが好きで、そういう人のCDはたくさん持っているのに、隣の家に良いアーティストが住んでいるのに知らないことが多い訳じゃないですか。現代ではそういう状況が当たり前かもしれないですけど、僕は健全じゃないと思っているんです。&ARTというメディアを立ち上げたのもそういったことに対する問題意識からきている部分もあります。イベントを開催した動機もそうですがこんなにも面白い、色んな分野のアーティストが同じ京都に居るという事を知ったら、京都の見方に、現在京都のイメージから抜け落ちている「現代」が加わって、京都の魅力を再発見出来ると思うんです。
中本さんの活動スタイルは自分自信の関心や興味が起点にあるようです。現代美術の作家としての制作/発表、音楽が好きで行っているイベント、それらの活動と活動の場である京都を眺め見たときに、こういう状況になったらもっと面白くなるな、みたいなことを漠然と思うのではなく、人と出会い、コミュニケーションを起こし、社会と繋げる状況を作って行きます。それは作家としての経験/視点を持ち合わせていたからこそ、&ARTというクオリティの高いWebサイトができ、そこから派生する多くのコミュニケーションが生まれたんだということが、お話を聞いていて分かって来ました。
これからの「&ART」と中本さんの活動は要チェックです。
&ART
http://www.andart.jp/
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