今回ヒアリングをお願いしたのは、嘉戸浩さんです。
嘉戸さんは昨年、自身で作られる紙のプロダクトの制作と、販売を行う「かみ添」というお店兼工房を開かれました。
京都でものづくりをするということ、紙のこと、お店を持ったことなど、ざっくばらんにお話を聞かせて頂きました。

「かみ添」は大徳寺の南、船岡山から鞍馬口通を少し東に行ったところにあります。この辺りは鞍馬口通を中心に、船岡温泉、さらさ、月光荘、スガマチ食堂と独特の雰囲気を持ったお店がたくさん集まっています。この地域は西陣や金閣寺ともほど近く、京都に慣れた観光客の方が多く集まっています。

 

〜そんなんしたら、もっともっといろんなこと出来る気がしてるんです。

> 使ってる紙について教えて下さい。

紙は基本的には越前の和紙です。僕の仕事は和紙に化粧する事が仕事なんで、基本的に和紙は他で漉いた物を仕入れてそれに化粧を、「具びき」っていうですけど、顔料染めをしたり木版で柄を付けたり、って言う仕事です。和紙ってピンからキリまであるんで、普通にいい和紙を使っちゃうと、便せんとかは何千円で売らなきゃいけなくなる。大体の価格設定をし、越前の人に見本見せて、こういう雰囲気の和紙を漉いて下さいと言うと結構やってくれはるんですよ。生紙でなくても全然いい。パルプを入れて下さいと。そのかわり厚みを出してくれとか、もうちょっと柔らかくしてくれとか、耳を出したいから、ちょっと繊維の長めのやつを入れて下さいとか。みんな洋紙に使い慣れてるんで、そんなイメージ全くないんですけど、僕らは大量生産の方には行けないので、それやったら紙の特異性とか、もっちゃりした紙のほうが良かったり、耳をあえてつけたりとか、繊維があって、よりが入ってて、傷がまた味になって。みんな紙を一から作るってあんまり考えへんのやけど、そんなんしたら、もっともっといろんなこと出来る気がしてるんです。

 

〜僕の中でアメリカの生活がおっきいですね。

> NY時代の話とか聴かせて下さい。

元々は嵯峨美術短期大学でプロダクトデザインをやって、そこで初めてコンピューターを使って、3Dでイス作って、それが面白くて、アメリカの大学に編入したんですけど、立体作るより、グラフィックの方が面白くなっていきました。
それで、アメリカのアートスクールで行きたい所全部回って、入学出来るのがサンフランシスコの大学だけやったんです。ポートフォリオを持って、インターナショナルオフィスみたいなところに行って、「どうやったら入学出来ますか?」って聞いたら、こっちおいでって言われて、即面接やったんです。作品見せてって言われて、プレゼンテーションして、それでこいつ授業ついて行けるなと思ったら入学許可してくれはるんですよ。そこだけ入れたんで、そこのアートスクールに入って、グラフィックを勉強しました。

僕、ずっと雑誌社に行きたかったんで、いるときは、雑誌社に入る為の授業ばっかり取ってたんです。プリントとか、タイポグラフィーとか。好きな雑誌がいくつかあって、その中のbig magazineがたまたまインターンの子がひとり抜けたから、インターンなら入っていいよって言われて、3ヶ月働いた後に、アートプロダクションって所に人がいるからって言って、働き始めたんです。
そこって世界中からいろんな人が写真とかイラストとか送ってきて、使ってくれ〜って、それをディレクターの人が特集に合わせて選んでいくんです。それこそ、日本からもたくさん送られて来るんですよ。で、僕はそれを売る為のプロダクションツール、特集がLAだから広告はDrマーチンにしよう、DIESELにしようとか、そこに送る為のプレスキットを作ってたんです。で、そういうのがずっとベースにあって、やりながらいろいろ勉強して行ったら、日本の浮世絵とか日本庭園とか、そういう情報がどんどん入ってきて、恥ずかしい話、京都で生まれたんですけど、外国行って日本の良さを知るっていう出来事がたくさん起こりました。ほんまにありがちなんですけど、むこういるから日本のものがよく見えるっていうことがありました。それで日本のいいものを勉強しました。時間もあったので、日本の本屋さんに行って、日本の雑誌とか、向こうにいるから、日本の事ばっかり吸収してました。日本の事がいいっていうのは、最初は、僕が感じたのは、日本の事が良いって言う前に、外国とか行ったらみんな多人種でしょ、アメリカに行ったらアメリカ人だけじゃなくて世界中の人がいて、絶対みんなその国の文化のことに詳しいんですよ、日本人って必ずしもそうじゃなくて、間の取り方とか、モノの引き具合とか、足し具合とか勉強して、あ、こんなに良かったんやって気付いて行きます。

で、一旦帰って来た時に、いろんな所回って、唐紙を見て、ぼくはこれに衝撃を受けました。初めて見た時になんじゃこりゃ!って、話しを聞いてたら、なんか、グラフィックデザインの基礎みたいな事がすべてここに含まれていて、これはおもしろいなって。それでいろんな偶然も重なって京都で唐紙の世界に入って勉強するようになりました。グラフィックデザインをやってる時とか、データを作って印刷会社に送って、色稿について相談したりします。でも唐紙だと、この紙やし、絵の具の載り方がどうとか、この紙ちょっと水分吸うし湿さなあかん、この版ちょっとくせがあるからいつもより少し強めに擦らなあかんとか、この柄ずれやすいからゆっくりあげなあかんとか、そんなんを自分で全部調節するんで、こんな楽しい仕事があるんや〜って。で、よく考えたら、これ印刷会社の人と話してるのと同じで、それを自分の手とか、感覚でやっています。それが一枚刷り上がったら、紙だけでは売らないんで、結局ふすまになったりするじゃないですか。そしたら立ち上がって、おー、立体になった、それが家に入ったら空間が作れて、おーこれ何でも出来るなって、こんなにおもしろいものがあったのか、っていうのめり込んだきっかけです。

 

〜自分がつくったものを100%プレゼンテーション出来る。

> 職人として、京都で独立してものづくりをすることについて聴かせて下さい。

ちょっと郊外に居を構えてもの作って、街に卸すって体系をよく取るじゃないですか。僕は、それやったら自分で店を構えて作った物をちゃんと見てもらえる様な空間を作ってやったほうが、ちょっとリスクは大きいけど、そっちの方が結果いいんちゃうやろかって思ったんです。人が集まってくれる場所が作れたら、自分がつくったものを100%プレゼンテーション出来る。
僕がもし10年20年って続けられたら、こうやったら独立出来ますよって道筋になるなって、それこそ職人さんて、京都の財産なんで、そういう新しい京都の財産が出来るんちゃうかなって思うんです。僕みたいに老舗で修行して独立する人はあまりいません。老舗のとこで修行しても、数年でやめて、全く別の業種につくことがほとんどで、そうなると、教える方にも真剣さがなくなってくる。それこそ行政が若手の職人さんが、独立して、仕事として回していくには、こういう段階を踏んだらいんですよ、みたいなんをちゃんとやってくれはったら、たぶん大概の人はできると思うんです。
こういう考えも、アメリカに行ってデザインの仕事してたから思うんですよ、デザインの勉強してなかったら全く考えられないですね。やっぱり、デザインは僕のベースにあります。

 

〜添えるって言う言葉の心のあり方が、すごく日本の美意識と合ってるなって。

> 「かみ添」っていう名前について教えて下さい。

添えるだけ漢字にしたんですけど、紙も漢字にすると固いイメージがあるなと思って、添えるって言う言葉自身が、私たちが思ってるものづくりに対して、店づくりに対して、この字に思いが詰まってるかなって、添えるって言う言葉の心のあり方が、すごく日本の美意識と合ってるなって。なんか決して主役じゃないじゃないですか、これも空間に添える物ですし、手紙とかもそうやし、その人に添える紙みたいな、添えるっている気持ちが好きなんです。

 

かみ添(かみそえ)
|住所:京都市北区紫野東藤ノ森町11-1
|営業時間:11:00〜18:00(月曜定休)
|TEL:075-432-8555
|mail:[email protected]
|URL:http://kamisoe.com/
|Blog:http://kamisoe.exblog.jp/

 

「kami no katachi」 exhibition

|日時:2010.11.29(MON)~12.26(SUN) 11:00〜21:00
|場所:URBAN RESEARCH 京都寺町店 B1F GALLERY SHOP
(京都市中京区寺町通蛸薬師下る円福寺前町285)

|参加企業/作家:
株式会社 大直 (SIWA)、かみの工作所、株式会社 辻商店、折り紙 コチャエ、

京和傘 日吉屋、かみ添

|主催 : URBAN RESEARCH KYOTO [http://www.urban-research.com/]
|企画・デザイン : Refsign [http://blog.refsign.net]
|協力 : サンエムカラー [http://www.sunm.co.jp/]