© SHIMURABROS.“X-ray train”2008

SHIMURABROS.

会期:2010年9月24日~10月30日
会場:タカ・イシイギャラリー京都 >>> http://www.takaishiigallery.com/
京都市下京区西側町483番地(西洞院通六条下ル)

オープニング レセプション:9月24日(金)18時~20時

アーティスト トーク:9月25日(土)16時~17時(ご予約不要)

 

タカ・イシイギャラリー京都で、2010年9月24日(金)から10月30日(土)まで、SHIMURABROS.の個展を開催される。

使われているのはまぎれもなく21世紀のデジタル映像技術だが、作品が潜在的にもっている問いは、映像の歴史にかかわるものである。
(港千尋『神経の列車が近づく』「BankART Bank under 35 SHIMURABROS.」展覧会カタログより引用)


SHIMURABROS.は、1976年生まれの姉・ユカと1979年生まれの弟・ケンタロウの二人組による映像アーティストです。今回の展覧会で は、SHIMURABROS.の代表作と言える映像インスタレーション「X-ray train」、そして本展のために新しく制作した「映画なしの映画」 と「日本橋」などの2作品、合計3つのシリーズを組み合わせて展示致します。

 

「X-ray train」は、19世紀末における映画誕生の瞬間に深く通じた映像作品です。作品の中に登場する蒸気機関車が駅に到着するシーン は、リュミエール兄弟の『L’Arrivée d’un train en gare de La Ciotat』(邦題:シオタ駅への列車の到着)における名場面です。1895年にパリで開かれた世界初の映画上映会で、映像というものを当時まだ知らな かった観客たちは、このリュミエール兄弟のフィルムを見て、実際に列車がこちらに向かってきているのではないかと錯覚してパニックを起こすほど驚愕したと いうエピソードが残っています。SHIMURABROS.は「映像メディアとリアリティの関係性」という映画誕生から続く本質的な問いを21世紀の現代に おいてどのように再考し、映画というものを初めて見た当時の驚きに匹敵するような映像表現をいかにして創り出すことができるかという命題にこの作品を通し て取り組んでいます。
港千尋氏は2008年に横浜で行われた「BankART Bank under 35 SHIMURABROS.」展のカタログで、リュミエール兄弟とSHIMURABROS.について、下記のような興味深い考察を記しています。
リュミエール兄弟の映画では、ひとつのスクリーンへのプロジェクションを群衆が一方向から眺めるのに対して、「X-ray train」では複数のスク リーンが一定の間隔で発光し、観客はどの方向からも眺めることができる。つまり後者は3次元空間のなかに置かれた彫刻として見ることが可能である。
「X-ray train」は、最先端の医療用CTスキャンの技術を応用して撮影した蒸気機関車の映像がコンピューター制御による12枚のスクリーンを駆 け抜けるという未知の映像装置として、また「3次元空間のなかに置かれた彫刻」として、映像史における新たな表現の可能性を秘めた作品と言えるでしょう。

新作の「映画なしの映画」は、1920年代のソビエト(ロシア)で生まれたモンタージュ理論の先駆的な実験として、後世に多大なる影響を与えたクレショフ 効果を題材とした作品です。レフ・クレショフは、映画制作のためのフィルムが欠乏していた時代、わずか90メートルのフィルムを用いて、世界の映画史に伝 説として語り継がれる「映画なしの映画」という名の重要な実験を残しました。

一 一人の青年、左から右へ行く。
二 一人の乙女、右から左へ行く。
三 二人が出会って、手を握り合う。青年は手で空間の一点を指示する。
四 広い階段を持った白亜の大きな建物が見える。
五 二人の人物が階段を昇って行く。
これらの断片の各々は、異った一組のフィルムからひき抜かれたものであった。即ち最初の三つ のカットはそれぞれ違ったロシアの街上で撮られたものであり、四番目のカットはアメリカの大統領官邸であった。しかし観客は、その場面を一つの全体として 知覚した。それこそクレショフが、観念的または創造的地理と呼ぶものである。(アンリ・アジェル著『映画の美学』岡田真吉訳、白水社、1958年から引用)

この実験によって、従来のワン・ショットによる映像表現だけでなく、モンタージュ(編集)という新しい考え方による複数のショットを組み合わせる手法が発 明され、映画の世界に大きな変革をもたらしました。残念ながら当時の実験のオリジナル・フィルムは発見されていませんが、SHIMURABROS.は京都 の映画の歴史からこの実験にふさわしい名画を選び、パブリックドメイン化されたフィルムの一部を切り出して、クレショフの実験の再現を行いました。次に、 再現の映像を独自の方法によりデータ処理することで立体としての形を与え、さらに「映画の光を3次元の物質へと変換させる」というアイディアを実現するた めに最新の3Dプリンター技術を用いて造形化を試みます。(通常、3Dプリンターは3次元CAD・CGデータをもとに立体モデルを積層造形するケースなど に使用されていますが、今回は現代アートでは初めての使用例となる画期的な手法を試みています。)
最終的には、京都の名画の数々がクレショフ効果と3Dプリンティングによって、ミニチュアのように精密に造形化され、美しい鋼のオブジェとなった作品群を発表致します。
テクノロジーを通じて映像メディアとリアリティの関係性を問うというコンセプトのもと、映像の歴史から自らの映像表現の在り方を照射させ、新たな表現の実験に次々と挑み続けるSHIMURABROS.の京都初個展をぜひご高覧くださいませ。

© SHIMURABROS.“X-ray train”2008 (Courtesy of Taka Ishii Gallery)

 

http://www.shimurabros.com/