「リフサイン・アーカイブス -手のチカラを今に伝える職人たち-山本晃久と岡本幸子 展」に合わせ、京房紐職人の岡本幸子さんにインタビューを行いました。伝統産業に携わるようになった経緯や、ものづくりに対する気持ちをお話して頂きました。

[山本晃久と岡本幸子 展]
>> http://blog.refsign.net/project/5315.html

 

 

生まれて育った環境いうのはものすごく大きいです。糸に対する見方、付き合い方が他の方とは違います。

 

Q いつぐらいから飾り房紐の仕事に関わるようになったんですか?

ほんとに小さいころからあたり前のように、お家に帰ってきたらおじいちゃんとかおばあちゃんが普通に作業をしていて、父も母も伯父も家族中がしていました。その中で育っていると、手が空いていると手伝うのが習慣になっていました。小学校5・ 6年生くらいから、簡単なことだと、房をセンチに合わせて切るとか、もう少し大きくなってからだと糸繰りとかをやっていました。そんな感じで、忙しい時にちょっとお小遣い稼ぎに手伝っていたんです。

房の仕事は夏場が忙しいんです。10月になるとお祭りがあるので、それまでに納める形が多いんです。その時には、糸を繰る量もほんとにたくさんあって、それを手伝っていました。生まれて育った環境いうのはものすごく大きいと思います。糸に対する見方、付き合い方が他の方とは違います。扱い方も違います。うち独自にやっているやり方もあって、内容は言えないんですけど、そういう細かいもんで、下ごしらえを全部、私とか妹とか母が分担してやって、それを総合的に作り上げるのが父です。

うちでは紐を組んだり、よりをよったりなど、一貫生産をしています。昔、先代の頃は西陣の方で紐は紐屋さん、よりはより屋さんと、別にしていたんです。自転車で糸を運んで、そこで頼んで、という風にやっていたそうです。それを先代のおじいちゃんが機械を入れることを決めて、オリジナルで設計図を引き、鉄工所に作ってもらったそうです。数年前に改良して、今は最高にいいものが出来るようになりました。小さい頃は、よその房屋さんにも工場があって、一から作っていると思っていました。

 

Q 日常の中であたりまえのようにお手伝いをされていて、いつ頃家業が伝統産業なんだということを意識するようになりましたか。

高校を卒業して、伝統的なお茶やお華が好きだったので池坊の専門学校に通いました。おそらく、その頃から意識するようになりました。

同じ伝統文化に携わることをされている家の子に、うちがこういう仕事をしているっていうことを言うと、房のことをよく知らない方が多いんです。ほんとに知らない人は、座布団の4隅に付いている房のことぐらいしか分からなくて、古いおうちの子やと、袱紗房を知っていたりするんですが、こんなに知らない人が多いんやっていうのにはちょっとびっくりしました。自分は、房があることが普通の中で育ったのによその人は知らないということびっくりしました。

お茶は今でもやっています。お茶の中でも道具の中で房が使われていて、うちで組むようなものもあります。やはり、伝統文化っていうのは根っこのところで繋がっているんだなと実感します。

 

Q いつ頃継ぐことを考えるようになったんですか?

父が兄弟3人でやっていたんですが、3年前に伯父がやめてしまったのが直接的な要因です。大きいものを作るときは結構な力仕事なんですが、父には女の手で大丈夫かなと心配されたりもしました。

 

Q そんなに力仕事なんですか?

すっごい力仕事です。こないだお見せした金縄(約1.3m)なんかはほんとに大変です。機械は使うんですけど、それを動かすための力がほんとにいります。

あと、最後の「きゅっ」、っていうのが大事なんですが、力を入れすぎたら変なしわができます。スカーフでもしっかり結んでないと取れてしまったり、反対に固く結ぶと変にしわがよってしまいますよね。その感じに似ています。うまく間をもたす。間はほんとに大事です。組み紐の流れがあるので、流れを生かしながらうまく結んでいくんです。それは指先が覚えている感触なんです。うちでは糸は最高級のものを使っています。手触りが気持ちいいんです。着物でも、いい糸で作った着物を着ると動きまで変わってきます。すりが違うんです。

 

Q 房の世界で女性は珍しいんですか?

組合の中だとうちだけですね。組み紐の帯締めなんかですと女性もいらっしゃるんですけど、房だけでいうと女性はほんとに少ないです。奥さんがちょっとお手伝いするっていうのは、他のところでもあると思います。

 

Q 良い房を見分けるポイントをおしえて下さい。

より房のスカート部分の下がきれいに揃っているか、振った時にきれいに振れるか、上の結びの花の部分に張りがあるかどうか、糸がきれいでないと張りが出ないんです。張りがある紐で結ぶときれいに形になるんです。大きなお祭りになると、振ったり、ぶつけあったりするんです。そのときにきれいに形がそのまんま振れている、よれたり柔らかかったりすると、掛けたり降ろしたりする作業でも、だんだん形がくずれてきたりするんです。

 

Q 一回納めるとどれくらいの期間使うものなんですか?

長いです。基本的には50年はもつように作ります。保存や取り扱いもちゃんとしてもらうようにお願いします。こちらもワンアクションで掛けられるように工夫しています。納めた所の人が、信用してうちに言って来てくださっているので、首から落ちてしまうとか、お祭りのときにそこの町内の人に恥をかかすようなことは出来ないので、ちゃんと長持ちするものを納めます。

 

Q見るポイントが分かってくると面白くなってきますね。

本数とかも大事なんです。少なすぎたり多すぎたりすると、振れが悪くなる。ちょうどいい加減の本数だときれいに振れるんです。これは今年納めた坂出のお祭りのもので、白い房です。とても気にいって頂けました。上下左右に振られるので、何とも言えない色気のある動きをするんです。

 

Qきれいですねぇ、踊ってるようにも見えます。僕は今までこんな見方したことがなかったですね。これまでは目立つ彫り物に目が行ったりしていました。

彫り物もすごいんですけど、房が無いとやっぱり寂しいんです。それぞれすごいものが集まった総合芸術がこの一台になってるんです。

 

道具や素材を触りながら工夫して、こうしたらいいな、ああしたらいいなという風に、遊びの中から色や形を見つけていくんです。

 

Q 房紐の色って決まっているんですか?

お祭りで決まっていたりもしますが、例えば全部黒で一筋金をいれてくれみたいなリクエストもあります。色の注文を聞いて、例えば水色なら、水色でもいろいろあるので、こちらから提案して決めていったりします。

 

Q 作り手の方で形を提案することはよくあるんですか?

うちの場合は、お客様に色々と提案することも多いです。手仕事なので、道具や素材を触りながら工夫して、こうしたらいいな、ああしたらいいなという風に、遊びの中から色や形を見つけていくんです。

 

Q 結びのデザインは何種類くらいあるんですか?また、新しくデザインしたりすることもあるんですか?

数えたことがないのでわかりませんが、神社さん、お寺さんで飾ってあるものは大体決まっているので、そんなにたくさん種類はありません。結びにはバリエーションもあるので、おそらく20程度だと思います。
それ以外に蝶々の結び、花飾りの結びなんかがあります。あと、結びは表裏の2面が普通なんですが、うちでは立体にして3面結びにしたりもします。例えば御神輿に飾ってあったら、どこから見ても結びが見えるようになります。これも遊びの中から形が出来てきます。

 

Q 飾り房の世界は、神社やお寺・お祭りの中で、決まった形や色を昔と同じ工程で同じように作っていくものなんだろうなと思っていましたが、いろいろと工夫して、時には実験的なこともされていることに驚きました。

あまりやり過ぎるのはよくないです。まず伝統的な色・形があって、それをアレンジしていきます。お祭りなんかでは、その町内の方が若い考えの方の場合だと、やりたいことのイメージを聞いて、そこから私たちもこうしたらどうでしょう、という風に提案していきます。

 

Q いままでやった仕事の中で、やりがいのあった仕事、楽しかった仕事は何ですか?

この、四国のちょうさ祭りとか、今も作っているんですけど、出来上がると大きいものになるので、それがやりがいもあって楽しいです。納めたところの青年団の方々もお祭り好きな方で、ものすごく喜んでもらえて、そういう反応を頂けるとほんとにうれしくなります。

 

Q これから飾り房の世界もこうなったらいいなとか、こうして行きたいみたいことはありますか?

伝統的なものをそのまましっかりやっていきたいです。それと、もう少しインテリアなんかにも使ってもらえるようになったらいいなと思います。もう少し生活の中で使われるように、カーテンのタッセルや布団カバーの四隅に付けたりとか。今の時代は節約とよく言われているので、質素になりがちですが、生活の中でこだわりというか、余裕が生まれればいいなと思っています。

 

 

岡本幸子 Tomiko Okamoto

京飾り房紐師 1966年生まれ。京都の伝統技術を継承して飾り房・紐を製作する岡本啓助工房で、神社儀式用の袱紗房などのほか文化財用の飾り紐、祇園祭をはじめとする祭礼用懸装品等を手掛けている。

【飾り房・紐】 宮廷や社寺の荘厳さを表現するため古くから室内調度品などに用いられてきた房・紐は、平安期以降その結びや染色技法を多彩に発展させて祭礼品や装身具、伝統芸能などの装飾として幅広く使われるようになった。現代でも茶室や社寺、祇園祭の山鉾の装飾などを彩る飾り房・紐を目にすることができる。